北方謙三『水滸伝』の魅力
『水滸伝』というと、中国宋代の反乱軍を描いた物語で、108人の豪傑が登場することで有名ですよね。
いろんな作者が『水滸伝』を書いていますが、私のオススメは北方謙三氏の書いた『水滸伝』です。
なぜかというと、北方謙三氏の『水滸伝』は、108人の豪傑の人物描写を全て丁寧に書き分けているからです。
そこらへんが従来の『水滸伝』とは異なっています。
大筋は同じなのですが、とにかくどのキャラクターも魅力的に描かれ、ベテラン作家の格の違いを思い知らされた気がしました。
章によって主役となる人物が変わり、108人全員に感情移入できるようになっています。
必ずお気に入りのキャラクターができます。
私もたくさんの小説を読んできましたが、こんなに「このキャラクターは死なないでくれ」と感情移入できたのは初めてでした。
そして、前半は反乱軍の仲間を集めていく話なので、「誰が仲間になるのだろう」「このキャラクターが仲間になってほしい」など物語の世界に入り込んで読んでいました。
仲間が増えていくにつれ、反乱の拠点も増えていくのがまたわくわくします。
敵側(宋の軍隊)にも政治の腐敗を嘆く者がいて、そういった実力のある豪傑たちを策をめぐらせて仲間にしていく過程も面白いです。
そして集まった豪傑たちにはきちんとそれぞれにしかできない役割があり、そういう所まで描写されていることに驚かざるを得ません。
これだけ長い小説ですが、途中で飽きることなくどんどんと巻を進めていくことができます。
夢中になれる読書体験がしたい方はぜひ読んでみることをオススメします。
ちなみに、私はまだ一部未読ですが、『水滸伝』の続きとして『楊令伝』『岳飛伝』があります。
何がすごいのかと言うと、『楊令伝』や『岳飛伝』では、『水滸伝』で活躍した人物の子供の代が主役になっている所です。
『水滸伝』であれだけ感情移入したキャラクターたちの子供の代ですので、こちらの思い入れも深く、親目線で彼らの活躍を楽しむことができるのです。
これらも合わせると北方謙三ワールド全開の一大スペクタクルになっていますので、しばらくは読む本に困らないですね。
そして、北方謙三氏は他にもたくさんの歴史物語を書いています。
私は塾講師をしているので分かるのですが、教える内容が自分の言葉になっているか、なっていないかは大きな違いを生みます。
小説も同じだと思います。
歴史上の有名な人物のことはみんなが知っています。
他の作者も題材にしていることが多いです。
そんな中でなぜ多くの読者を獲得しているのかと言えば、それは歴史的事実を物語として北方謙三氏が再構成し、自分の言葉で小説を書いているからに他ならないと思います。